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創元推理文庫刊。

「ハメルンの笛吹き男」が実話だと知ったのはいつだったか。
この話の主人公も、タイトル通りパイド・パイパーよろしく子供たちを引き連れてヨーロッパ横断の旅に出ます。最終目的地は英国の我が家。時は1940年の夏、伍長閣下大活躍の時代。
ハメルンと違うのは子供たちは安全を願う親や親戚からの託されものだということです。そのいきさつを描いたロードムービーならぬロードノベルがこの話。なんつーか、全体に淡々とした描写が却って情景を際立たせて、なんでこんなところでというところで不意打ち食らったみたいに涙が出てきて困りました。別にお涙頂戴の描写なんかないんですが。(「渚にて」の著者にそんなこたあ期待しません。)
キャラ的には最近ブリティッシュにめろめろでございますが、この主人公もまたいい味を出してる。しかも今回は70のじーさま、内心毒づいたり途方に暮れたり大忙しなのに、あくまで飄々とした言動にダンディズムが感じられてとても良い。「なんでもないこと」のように聞き手に語っていくのがもう。彼と彼の息子さんの恋人との遣り取りも、さりげなさに人生の重みを感じさせて、じんわりと心に沁みるのです。

ところでハメルンて、連れてかれた子供たちが通ったため、音楽や踊りを禁じる「舞楽禁制通り」というのがいまだにあるそうです。
彼らはどこに行ったんだろう。この小説の子供たちみたいに、安らかな日々を迎えられたんだろうか。
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