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■注意■
一次の艦船擬人化妄想と紙端国体劇場様
の鉄道擬人化のミックスです。
念のために折り畳みの上で反転、御用のない方はスルーを推奨致します。

木更津線(現・内房線)と戦艦肥前の話。
木更津は内房の幼少期ということでひとつ。肥前は佐世保籍ですが、ヒトのほうは内地ならある程度は本体を離れてうろちょろできるってことでひとつ。
肥前を持ってきたかったんですよ…それだけ…。


「国有鉄道の木更津線様とお見受け致します」
 声をかけられて、木更津はとても驚いた。仲間内以外でまっすぐに何者かを呼び当てられたことなどなかったからだ。相手はひどく背の高い女性で、まだ小さな木更津は彼女の顔を見るにはうんと首を折らねばならなかった。
 隠しボタンで、黒に近い藍色の縁取りを施した濃紺の詰襟服。膝より少し長いくらいのスカートはふんわり広がり、かすかな風に揺れるごとに裾に見え隠れするレースは、さながら冬の波頭。
 なにより、なんてきれいなひとだろう。白のような銀のような淡い色の髪を結い上げて、うす水色の目、白い肌。明らかに異国のひとだった。木更津の走る区間で洋装の、ましてや外国人女性を目にすることはまだまだ少ない。あんまり驚いた木更津は、直立不動ではいと返事をするのがやっとだった。
「わたくしは肥前と申します。ご存知でしょうか?海軍の軍艦の」
「…!あ、はい!えーと、あっちがわに海軍の港があって、」
「わたくしは九州の佐世保におりますから、あっちがわ、の横須賀ではございませんけれども」
 ふふ、と肥前と名乗る女性は微笑んだ。木更津はようやく相手の正体を悟った。鉄道と軍艦、本体は違うけれども人ではないという意味で自分と同種だ。肥前はまっすぐに腰を落とし、木更津の前に膝をついた。海と、花と、よくわからないけれども柔らかな香りと、かすかに石炭のにおいがした。
「年が明ければ北条へ延伸が成ると伺いまして、ごあいさつに上がりました。まずは少し早うございますが、謹んでお慶び申し上げます」
「ありがとうございます!」
「北条海岸の沖は、漁船や貨客船の皆様と同じく、わたくしどもも多く往き来致します。対岸の横須賀様にも大変お世話になっておりますが、房総半島の海岸線にも鉄道が引かれると伺って、とても心強く思っているのです」
 身が引き締まる思いだった。多くの人に頑張れ、待っていると告げられて、それでも初めての延伸、また名が変わるのに抱いていた不安は、肥前の言葉ですべて吹き飛んだ。ここまで言われて奮い立たねば男じゃない。木更津は頬を上気させ、精一杯胸を張った。
「ありがとうございます。頑張ります!…うんと、いっぱい頑張ります!」
「木更津線様がこんなにしっかりした方で、わたくしも安心致しました。ことのついでではございますが、実はあわせてお願いをしに伺ったのです。お聞きくださいますか?」
 肥前はすいと視線を滑らせた。どこに隠れていたのだろう、木更津よりも年下らしい水兵服の少女が、もじもじと目の前に現れた。肥前に背を押され、真っ赤になって頭を下げる。あれ、と木更津は頭を傾げ、そうして思い至った。初めて総武に会ったときの自分がこうだった。
「これの本体はただいま横須賀で建造中の戦艦です。名前はまだ正式に頂いていないのでご容赦を。わたくしの妹分にあたります」
「おふね、なのですか?俺より小さいのに」
「進水して、艤装して、公試を経て竣工して、すぐに大人になります。―― どうかこの子と、この子たちと、仲よくしてやって下さいませ」
 深々と肥前は頭を下げた。少女も何度か口ごもったあと、仲よくしてください!とぴょこんと頭を下げた。おんなと仲よくするのかあ、と思わないでもなかったが、木更津は少女のみみたぶが真っ赤なのを見て、しかたないなと手を伸ばした。
「こちらこそ、よろしく。木更津線です。うんと、もうすぐ北条線」
「…木更津線のおにいちゃま?」
「あとちょっとだけ。もうすぐ北条になる」
「北条のおにいちゃま、ね!」
 少女はおずおずと手を握り、そうして晴れやかに笑った。ねえさま、と少女が肥前を振り仰ぎ、肥前はゆったりと微笑みかけた。それは本当に仲の良い姉妹で、肥前の異国の風貌と少女の日本人形の面差しの違いに、なんら違和感を感じさせない幸せな光景だった。つられて木更津も笑った。自分も総武さんと、房総や東金や久留里や、いつか会える後輩や同輩とこんな風になれたらいい。
「えと、肥前さんは、ずっとこっちにいら、いらっしゃるんですか」
「いいえ、先ほども申しました通りわたくしの本体は佐世保にございますから、そう離れてはいられません」
「それじゃ、また来てくれますか?もっとたくさんお話ししたいです。総武さんとか、房総にも会ってもらいたいし。あのね、総武さんは俺のせんぱいで、すごくかっこういいんです!」
「まあ。それでは機会があれば、いつか必ずまた伺いましょう。今度はこんな突然ではなくて」
 絶対ですよ!と木更津は笑った。あたらしい友達が増えた。それはとても、とても幸せなことだった。
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