忍者ブログ
今日何を読んだ、面白かったレベルの読書感想文メイン雑記
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

小説を書いたの。
本気で自分内作法を忘れていました。

さて本当に萌えは偉大です。紙端国体劇場様の二次創作です。なおご本家、実在物とは一切関係ありません。
お題がございまして、うつたかで「ずっとここに居てくれたんだね/君以外なら何だって手放せるよ/いっそ出会わなければ、良かった」です。
‥‥このお題だけで完結してるんじゃないかと思うんですが。

 最後尾の荷物車から乗り込み、車掌に礼を施して三等車へと移ると、乗客はもう誰もがうつらうつらと船をこぎ、さて今は何時だと時計を読んで納得した。青森を発して盛岡、仙台、福島、白河と夜を継いで走るこの編成には寝台車両もあるにはあるが、より安い運賃で済む客車から埋まるのが常だった。当然だと東北本線は思う。彼が走るのは概して貧しい土地だ。地理条件から将来の富を嘱望されていても、それは今の話ではない。空いた席に腰を下ろし、制帽を掛けて息をつく。向かいではまだ子供々々した少年がこっくりと頭を垂れていて、この子はどこまで行くのかしらとふと思う。夜汽車に乗るなら終点までか。上野で降りて、駅を出て、それとも山手や京浜東北に乗り換えて更に西へ。戦争が終わって男手はどこも足りなかった。北から人は南へと流れ、その流れの軸に自分がいる。
 少年の頭が大きくかしいで、座席から転げ落ちそうになるのを咄嗟に支えた。ぱっきりと目を覚ました少年はありがとうと礼を述べると同時に目を見張り、東北本線の顔を穴が開くほど見返した。いつの間にやら偉そうななりの大男が目の前に座っていたならば、それも当然の反応だった。なにか話したそうに口を開くのにどういたしましてと会釈を返し、外套をケット代わりにかき寄せて東北本線が座席に埋まると、少年の関心もそこまでだった。細く長く息を吐き、凍えた窓硝子へと頭を預け、レールの継ぎ目が奏でる音に東北本線は身を沈めていった。
 この身が路線そのものであるという事実に、在ってこのかた彼は納得したためしが無い。六尺あまりの男の体はそれ以上のものではなく、であるのに存在は己が路線内に限って普遍する。いまもそうだ。三等車の猥雑、二等寝台の寝息、重連の動輪は軋みを上げて回転し、コークスの燃える熱とにおいはそのままわが身の裡にある。
 盛岡で給水の用意が出来た。一ノ関は晴れている。
 松島の海風は雪を孕み、岩沼で貨車が白く染まる。
 雨の白石でこんな夜中にひとり立つのは誰だろう。安達太良山から吹き降ろす風も、郡山でバラストを打つ保線員も、希めば掌を指すように、否、これこそが自分、東北本線だ。線路に沿って意識を延ばせば己は次第に薄く熔け、ただある、という愉悦だけが満ちてくる。
 白河の向こうは関八州、どうしてヒトとしての個体があるのだ。そんなものは要らない、なにひとついらない、ただありたい、ありたいという欲求もいらない。いらないという感情すらいらない。宇都宮からはほぼ平地、支線たちが収束し、小山、古河、大宮。
 大宮。
 隧道を抜けて警笛が不意に広がった。窓の外は夜に塗りこめられて、遠く稜線が黒々と横たわっていた。車掌に訊くともうすぐ盛岡だという。まだ盛岡なのかと時計を読んで納得した。酩酊にも似た痛みを覚えて頭を振ると、膝に蜜柑が落ちてきた。あげる、と向かいの席の少年が言って目を逸らすので、ありがとうと礼を述べて皮に指を割り入れた。ささくれに果汁が沁みる。おまけにひどく酸っぱかった。さあどうやって八つ当たりしてくれようか。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
02 2025/03 04
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
最新コメント
[04/29 秋津]
[04/28 まっくろ]
[10/23 秋津]
[10/22 サキク]
[09/26 秋津]
トラックバック
書いている人
秋津
間抜けなのんき者の割りに短気なミリヲタと歴史ヲタの入った腐女子
ブログ内検索
アクセス解析
忍者ブログ [PR]