ボコりあいだと思った？残念だったな！

■注意■
一次妄想ですが、紙端国体劇場様の鉄道擬人化ありきの妄想です。
御用のない方はスルーを推奨致します。

ついったさんで「1rtで頬に切り傷2rtで頭に切り傷3rtで背中に切り傷4rtで口に切り傷5rtで古傷6rtで青あざ7rtで吐血8rtで鼻血9rtで縫い跡10rtで満身創痍」というネタタグがありまして、みごと２RTを頂きました。ありがとうございます。
演習下志津線とちび久留里と北条（＝ちび内房）の話。
木更津くん北条くんを書くときは、「どうしてこうなった」と呪文を唱えながら書くと上手くいく気がします。

ひく、と腕の中のこどもの喉がひきつれた。
「お泣きじゃあないよぉ？」
　胡坐に座りなおして安定させてから、下志津は口で手袋を引き抜き頭に触れた。思った以上に冷たく濡れた感触がして、ああこりゃひどい。と他人事のように思う。なにしろ痛みもなにもない。
「大丈夫？なあ、だいじょうぶ？」
「……ちょっとひどいかもなあ」
「そんなぁ……！」
　北条の目にみるみる涙が盛り上がった。不用意なことを言ってしまったと後悔する。安心させようと笑いかけて、引き攣れて顔がゆがんだ。いったい今、どうなっているのか。
「北条、泣くなよ、だいじょうぶだよ」
「でも久留里、連隊さん、おれのせいで血が」
「だいじょうぶだよ、下志津は俺たちをびっくりさせるのが好きなんだ」
　な、と言った久留里の目も不安で揺れていた。当然だ、この子たちは見た目通りの子供でしかない。自分が実年齢とはまったく別に、見た目通りの大人であり軍属であるのと同じように。互いの手を固く握りあう子供たちを、下志津はまとめて抱えなおした。
　台風一過の災害支援で出動し、崩落現場になぜこの子供たちがいたのかといえば、自線内というただそれだけの理由だろう。土砂崩れの直下から子供たちを抱えて横っ飛びに飛んだはいいが、同時に線路下の崖へ滑り落ち、ついでに土砂の追撃を食らって、気が付いたら藪の中だ。現場には省線の保線要員やら連隊兵やらがいたからおいおい助けが来るだろうが、ここから空はあまりにも遠い。
「俺はまあ、大人だからねぇ。それよりふたりとも、痛いところはない？」
「ない」
「俺ここすりむいた」
「半ズボンはやめなさいって総武も習志野も言ってたでしょー？これなら唾つけときゃ治るね」
「連隊さんもつばつけたほうがいい、ですか？」
「いらないいらない、ああ俺、顔やっちゃってるのか」
　触れてみたらざっくりと頬が裂けていた。久留里が背伸びをして頭を覗き込んで、切れてると下志津に告げる。ひっと北条が息を呑んだ。
「じっとして、あんまり動くんじゃない。ほら俺に掴まって、すぐに助けが来るよ」
「でもこんなに血」
「俺はしゃべってるよね？」
「うん」
「ちゃんと君たちを抱えてるよね？」
「うん」
「じゃあ大丈夫、泣くこっちゃないよ」
　北条は唇を一文字に引き結び、ぐいと目許を拭った。強い子だ、と思う。
「ごめんなさい……」
「なんで謝るの？」
「だって俺のせいで、連隊さんが」
　おまけに真摯だ。まだまだ小さな体で、北条はもう立派にいっぱしの鉄道路線だった。ならばこちらも相応しい振る舞いをしなければならない。
「俺たちはね、君たちを助けるのも運用目的のうちなの。だから謝ってもらう理由なんかない」
「だって俺のせいだ。俺が見に行こうって、心配だからって余計なことをしなかったら」
「そう思うなら次からそうしなさい。それにね、謝ったってこっちの士気は上がらないね。もちろん謝るのは大事だけれどもね、言葉ってのは適切に選んで使うもんだからね」
「じゃあ、なんて言えばいいの？」
「がんばれ、って言ってくれる？」
　あっけに取られる北条に、下志津はにいっと笑って言った。子供をふたりも抱えてへたれたりしたらあとでなんと言われるか、下志津にはそちらのほうが考えるのも嫌だった。正直、目の中に血が入ってつらい。だががんばれと言われれば、頑張らない訳にはいかないではないか。
　がんばれ、と小さな声で北条が言うのにおう！と返事をして、下志津は背を崖の壁に預けた。上で人の気配がする。そう待たずに救助の手が延べられるだろう。あとは雨で地盤が緩んでいないことを祈るばかりだ。
「頭の傷、縫ったらそこだけ禿げんのかねぇ……」
「大丈夫だ下志津、はげても下志津はかっこいいぞ、がんばれ！」
「そこはがんばれって言わなくてもいいの……」
　久留里の励ましに苦笑しながら、下志津は仰ぎ見た。木立のかなたに空は高い。あの青に手を掛けるまで、子供たちを送り届けるまで、弱音を吐くわけにはいかなかった。