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今日何を読んだ、面白かったレベルの読書感想文メイン雑記
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■注意■
一次妄想ですが、
紙端国体劇場様の鉄道擬人化ありきの妄想です。
御用のない方はスルーを推奨致します。

ついったさんでフォロア様が「外套とっかえっこで習志野に間違えてさらわれた北条君、その後阿鼻叫喚(意訳)」というお話をしてくださり、ご許可を頂いて書かせて頂きました。ありがとうございます。
演習線と北条線(現・内房線)の話。
内房線は木更津線(10歳前)→北条線(十代前半)→房総線(十代後半~カンスト)→房総西線→内房線と変化するイメージです。だいたい房総線(現・外房線)が十代後半から二十歳くらい、総武さんがカンストくらいかと。
ジャ●ニカの漢字練習帳を買って「内房線はヤンキー」と正座で書き綴るべきだよな…いや神官さんも歳月ってむごいっておっしゃってたし…


「産まれたての仔猫を掻っ攫うようなもんだろうが…!」
 松戸が頭を抱える一方で、少年は習志野の手を離し、こんにちわと頭を下げた。着ているのは金ボタンつきの黒詰襟、真っ黒な左分けの散切り頭で、ヒトならば十歳前後だろうか。
「いやなあ、久留里の外套を着ていたもんだから」
「耄碌するには早いでしょー?」
 習志野の外套を受け取りながら下志津が笑った。所在なげな少年を覗き込み、にぃーっと唇の両端を釣り上げる。
「木更津線でしょ?省線の」
「いまは北条、です」
「そうだった延伸おめでとう!外套貸しなよ、あっちに下げとくから」
 ここにお座りね、羊羹は好き?と世話を焼く下志津に北条を任せて、松戸は習志野に向き直った。
「説明してもらおうか」
「五井で久留里と取り違えた」
「外套だけでか?あんた馬鹿か」
「制帽も被っていたしなあ」
 膝をそろえてちょんと座る北条は、いかにも育ちの良さげな子供だった。最年少で管内ただひとり生粋の官設であるこの路線を、総武をはじめとする県内の鉄道省線たちはひどく可愛がっていた。どういうわけだかよく似た造作の房総など、溺愛を通り越して執着の域だ。
 それを間違えとはいえ無断で連れ出して、ただで済むはずがない。気付いた時点で取って返せばよいものを、面倒は一緒だとここまで連れてきたのだろう。このものぐさが、と松戸は舌打ちしたが、今となってはあとの祭りだ。取り敢えず煙草をと胸ポケットを探り掛けたとき、じゃりんと電話が鳴った。
「鉄一連」
『松戸か』
「済まん馬鹿が馬鹿やった、作草部だ」
 総武からの電話は即座に切れた。さて十分後か三時間後か、修羅場は確実となったわけだ。
 出された茶にも手を付けず、北条は長椅子でひたすら畏まっていた。実年齢だけならば北条は松戸よりも年長だ。長椅子のもう片端に座って北条を眺める下志津も、見かけは壮年の習志野も、生まれ年はこの少年と大して変わりはしない。だが細い首筋と相俟って、北条はなんとも心細げに見えた。
「うちのが迷惑を掛けた。すぐに総武が来るから、それまでゆっくりしていってくれないか」
「久留里がね、木更津が北条がーってよく話してくれるんだよ。たまには習志野も気が利くなあ」
 かぶりを振って、北条は視線を上げた。これが特徴なのだろうか、三白眼気味のまっすぐな目だった。
「ううん、俺が久留里と外套を取り換えっこしたせいだから。それに、俺も一度、ちゃんと話したかったし」
「はなし?」
「ありがとうって」
「礼を言われる心当たりは無いが」
「いつも保線さんや機関士さんの訓練を助けてくれるから」
 虚を衝かれ、松戸は習志野と下志津を見た。
 民間から職員を預かって短期で要員に仕立てるのも、連隊にとっては訓練のうちだ。工兵や鉄道兵は銃を持って突撃すれば終わりではない。育成には手間も金も掛かるため、民間の協力を得て効率化の実験台となってもらっているのが真相だった。自分たちが保線の元締めのようなものなので忘れていた、少年たち民生鉄道は、多くの要員の助けがなければ運行出来ない。
「礼もなにも、俺たちゃそのために在らぁな。こき使ってくれて丁度良いってもんだ」
「うん、総武さんもゆってました。俺がお礼を言いたかったんだ。この前の大雨のときも助けに来てくれた。久留里を敷いてくれた。ありがとうって、たくさん言わなくちゃって決めてたんです」
 会議の時とかはみんないるから。と頬を染めて俯く北条の髪を、習志野が手を置いてかき混ぜた。下志津がそれは楽しげに笑って、どういたしましてと謳うように呟いた。
「こんど久留里とお泊りにおいでね。双合機関車に乗せたげる。省線さんにはないでしょ」
「総武さんと房総がいいってゆってくれたら」
「そいつぁ難しいなあ。久留里と仲良くしてくれるか」
「うん、じゃなくてはい、あたりめぇだよ、接続してるんだし!」
 やっと笑った北条に、松戸は肩の緊張を解いた。自分たちは最初からこの姿で、大隊からの記憶さえも携えて在った。ヒトのように成長する、まだまだ幼いこの路線には、この世はどのように見えているのだろう。
 と、下志津が動きを止めた。習志野がうっそりと首を巡らせ、足音が近付くのを松戸も聞いた。
「うちの若ぇのが世話ンなったなあ第一連隊さんよォ!」
 扉を蹴り開けた総武を見て、松戸は思った。取り敢えず総武の後ろで変に笑う房総と、椅子の背を逆手に握った下志津をどうにかして貰いたい。確実に午後が丸々潰れる。
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