今日何を読んだ、面白かったレベルの読書感想文メイン雑記
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■注意■
一次妄想ですが、紙端国体劇場様の鉄道擬人化ありきの妄想です。
御用のない方はスルーを推奨致します。
戦前千葉ズと演習線とスカさんでぐだぐだ。
北条君(=内房線ミディ)は可愛いねというだけの話。
「あのごついのぁどこのどいつだ?」
「横須賀線」
「海さんか」
ごちる習志野を横目に、総武は大量の砂糖と牛乳をコーヒーに放り込んだ。習志野からすれば胸が悪くなる量だ。最初から温牛乳にでもしておけよ、と喉まで出かかって習志野は止めた。
それよりも隣だった。本来は四人掛けの席に、子供がふたりと大人が三人。野郎ばかりの上に着ているのは黒尽くめの詰襟服、そうでなければ陸軍の軍服ときた。千葉では珍しい洒落た洋風の店で、隣と自分たちでボックス席をふたつも塞いで、異様なことこの上無い。
向かい合って座る子供たち ―― 北条と久留里は、目の前の皿を攻略するのにもう一所懸命だった。美しく果物が飾られたプリンなんて、大人にだって贅沢な品だ。子供にとってはもう夢のようなものだろう。うまいな!といちいち感嘆しながら、ゆっくりゆっくり、惜しむようにスプーンを動かしている。
習志野がうんざりしたのは一緒に座る年長組だった。久留里はまだいい。隣に座るのは下志津だけで、いつもの爽やかな、そして少しばかり胡散臭い笑みを更に深めて、時折世話を焼くだけなのだから。しかし北条の両脇に陣取る青年二人はなんなのだろう。習志野は片肘をついてふたりを眺めた。
「なあ房総、うまいなこれ!俺こんなにうまいの初めて食べた!」
「そうか、良かったな。あとでちゃんと総武さんと連隊さんにお礼を言えよ」
「分かってんよ!」
「ああほら、ここ付いてるぜ?」
「え、横須賀さん、どこ?」
「ここだここ、こっち向いてみ?」
北条の口元を拭う横須賀に、房総がぎっと目を剥いた。よし出来た、と北条の頭を撫でた横須賀は、房総に斜に視線を呉れて鼻でせせら笑った。こんな遣り取りが攻守を変えて、北条の頭の上で延々と繰り返されている。見ている分には面白かった。ただ後々を考えると面倒だった。
「なあ総武」
「おうよ」
「なんで鎮守府路線がこんなところにいやがる。貴様、接続でもしてんのか?」
「してねぇよ。俺じゃなくて北条。東京湾を囲って走る仲ってんでよ、たまに構いに来るんだよ」
「まめなこった」
性質上、私鉄官設を問わず習志野は全国の路線と面識があるが、海軍鎮守府を抱える路線は例外だった。海軍の要請により敷かれた彼らは陸軍の介入を嫌う。横須賀線にしても必要なときには東海道本線を介して接触していたため、習志野が彼と直接相対するのは今日が初めてだった。
房総よりも横須賀の方が見た目はやや年嵩、総武と同年齢くらいだろうか。がっちりした体つきの割に身のこなしが軽い。長めの髪を後方へと撫でつけて、袖から覗く艶消し金のカフスボタンが制服の金ボタンと良く調和していた。この洒落っけは確かに海軍だった。これで香水でも嗜んでいたら完璧だ。
「手前ェこそ油売ってていいのか?松戸が怒ンだろ」
「あれの作業待ちなんだよこっちゃあ。引き継いだら今度はこっちが三昼夜はぶっ続けだ」
「ご苦労さん」
その待機の時間潰しで子供たちに構ったは良いが、保護者に加えて遠来の客までくっついて来たのは想定外だった。どのみちいい大人にまで金を出す気はない。コーヒーカップに口をつけ、空なのに習志野は気が付いた。女給を呼んでソーダ水を注文し、椅子に深々と座りなおす。
「しっかし可愛いなあ。なあ北条、俺のお嫁さんにならねえ?」
とち狂った科白を横須賀が吐いた。からかい半分なのは明らかだった。が、即座に房総が青筋を立てたのを見て、習志野は座ったままゆっくりと重心を移動させた。まともなコーヒーを飲ませる店は多くはないというのに、青二才どもに暴れられて出入り禁止にでもなったら困るのだ。それは総武も同じらしく、彼はカップを置いてそっと卓の中央に押しやった。
言われた北条は手を止めて、きょとりと横須賀を見上げた。下志津が指先でフォークを回転させ、持ち替えたのを習志野は見た。北条はたっぷりと横須賀をみつめたあと、房総へと頭を巡らせて、そうしてまた横須賀を見た。
「俺、横須賀さんのお嫁さんにはなれねぇよ」
「なんで?」
「房総とずっと一緒にいてぇから」
振られたねえ、とけらけら笑う下志津の脛を、卓の下で横須賀が蹴った。どこ吹く風で早くお食べーと促しながら下志津が横須賀の靴の甲を踏みにじり、一方で房総の機嫌が見る間に上昇していく。
「寄席よりかァ笑えるな」
「なんだ手前ェ、寄席なんか行くんか」
「たまに」
総武に返事をしながら、習志野はソーダ水をひとくちすすった。お行儀良くご馳走様と挨拶する久留里と北条よりよほど子供じみた遣り取りは、確かに面白かった。見ている分には。
「横須賀線」
「海さんか」
ごちる習志野を横目に、総武は大量の砂糖と牛乳をコーヒーに放り込んだ。習志野からすれば胸が悪くなる量だ。最初から温牛乳にでもしておけよ、と喉まで出かかって習志野は止めた。
それよりも隣だった。本来は四人掛けの席に、子供がふたりと大人が三人。野郎ばかりの上に着ているのは黒尽くめの詰襟服、そうでなければ陸軍の軍服ときた。千葉では珍しい洒落た洋風の店で、隣と自分たちでボックス席をふたつも塞いで、異様なことこの上無い。
向かい合って座る子供たち ―― 北条と久留里は、目の前の皿を攻略するのにもう一所懸命だった。美しく果物が飾られたプリンなんて、大人にだって贅沢な品だ。子供にとってはもう夢のようなものだろう。うまいな!といちいち感嘆しながら、ゆっくりゆっくり、惜しむようにスプーンを動かしている。
習志野がうんざりしたのは一緒に座る年長組だった。久留里はまだいい。隣に座るのは下志津だけで、いつもの爽やかな、そして少しばかり胡散臭い笑みを更に深めて、時折世話を焼くだけなのだから。しかし北条の両脇に陣取る青年二人はなんなのだろう。習志野は片肘をついてふたりを眺めた。
「なあ房総、うまいなこれ!俺こんなにうまいの初めて食べた!」
「そうか、良かったな。あとでちゃんと総武さんと連隊さんにお礼を言えよ」
「分かってんよ!」
「ああほら、ここ付いてるぜ?」
「え、横須賀さん、どこ?」
「ここだここ、こっち向いてみ?」
北条の口元を拭う横須賀に、房総がぎっと目を剥いた。よし出来た、と北条の頭を撫でた横須賀は、房総に斜に視線を呉れて鼻でせせら笑った。こんな遣り取りが攻守を変えて、北条の頭の上で延々と繰り返されている。見ている分には面白かった。ただ後々を考えると面倒だった。
「なあ総武」
「おうよ」
「なんで鎮守府路線がこんなところにいやがる。貴様、接続でもしてんのか?」
「してねぇよ。俺じゃなくて北条。東京湾を囲って走る仲ってんでよ、たまに構いに来るんだよ」
「まめなこった」
性質上、私鉄官設を問わず習志野は全国の路線と面識があるが、海軍鎮守府を抱える路線は例外だった。海軍の要請により敷かれた彼らは陸軍の介入を嫌う。横須賀線にしても必要なときには東海道本線を介して接触していたため、習志野が彼と直接相対するのは今日が初めてだった。
房総よりも横須賀の方が見た目はやや年嵩、総武と同年齢くらいだろうか。がっちりした体つきの割に身のこなしが軽い。長めの髪を後方へと撫でつけて、袖から覗く艶消し金のカフスボタンが制服の金ボタンと良く調和していた。この洒落っけは確かに海軍だった。これで香水でも嗜んでいたら完璧だ。
「手前ェこそ油売ってていいのか?松戸が怒ンだろ」
「あれの作業待ちなんだよこっちゃあ。引き継いだら今度はこっちが三昼夜はぶっ続けだ」
「ご苦労さん」
その待機の時間潰しで子供たちに構ったは良いが、保護者に加えて遠来の客までくっついて来たのは想定外だった。どのみちいい大人にまで金を出す気はない。コーヒーカップに口をつけ、空なのに習志野は気が付いた。女給を呼んでソーダ水を注文し、椅子に深々と座りなおす。
「しっかし可愛いなあ。なあ北条、俺のお嫁さんにならねえ?」
とち狂った科白を横須賀が吐いた。からかい半分なのは明らかだった。が、即座に房総が青筋を立てたのを見て、習志野は座ったままゆっくりと重心を移動させた。まともなコーヒーを飲ませる店は多くはないというのに、青二才どもに暴れられて出入り禁止にでもなったら困るのだ。それは総武も同じらしく、彼はカップを置いてそっと卓の中央に押しやった。
言われた北条は手を止めて、きょとりと横須賀を見上げた。下志津が指先でフォークを回転させ、持ち替えたのを習志野は見た。北条はたっぷりと横須賀をみつめたあと、房総へと頭を巡らせて、そうしてまた横須賀を見た。
「俺、横須賀さんのお嫁さんにはなれねぇよ」
「なんで?」
「房総とずっと一緒にいてぇから」
振られたねえ、とけらけら笑う下志津の脛を、卓の下で横須賀が蹴った。どこ吹く風で早くお食べーと促しながら下志津が横須賀の靴の甲を踏みにじり、一方で房総の機嫌が見る間に上昇していく。
「寄席よりかァ笑えるな」
「なんだ手前ェ、寄席なんか行くんか」
「たまに」
総武に返事をしながら、習志野はソーダ水をひとくちすすった。お行儀良くご馳走様と挨拶する久留里と北条よりよほど子供じみた遣り取りは、確かに面白かった。見ている分には。
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