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今日何を読んだ、面白かったレベルの読書感想文メイン雑記
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好きなんですよ、この歌。

紙端国体劇場様の二次創作です。ご本家、実在物とは一切関係ありません。
ESです。完全女性向けにつき念のため反転、御用のない方はスルー推奨。
私の脳内ではパラレルでAEとESが同居しています。なんてこったい。
ついでに私の在所から新宿へ行く場合、本八幡で都営のフリー切符を買うのが多分一番安上がりです。

「ああ寒いこと。参ったね本当もう風が冷えて冷えて」
「おかえりなさいませ、お疲れ様です」
 シャツ一枚ならそれは寒かろう。大騒ぎで入室してきた新宿を一瞥しただけで、大江戸は書類に向き直った。
「冷たいねえもぐちゃんは…あのさあなんかあったかいのある?」
「ポットにお湯が沸いています。コーヒーとお茶、どちらにしますか?」
「ビール無いの?」
「勤務中です」
 仕方なく立ち上がり、そろそろ終業だからと勝手に判断して、大江戸はほうじ茶の茶葉を急須に放り込んだ。こころなしか震えながらデスクについた新宿の前に湯呑を置くと、新宿はありがとね、と笑って両手に包み、温みを楽しむように湯気を顎にあてていた。
「そんなに冷えましたか?最低気温は5度くらいと訊きましたが」
「俺、川を渡るのよ?川風ってのは冷たくてさ。高尾の方も全然違うし。今日は行ってないけど」
「行っていない?」
「京王さん、天候次第で融通利かせてくれんのよ。その分23区内は俺が面倒見るって決まり」
 大変なんですね。と大江戸はつぶやくように言った。軌間と動力の関係で、大江戸が乗り入れ可能な路線はいまのところ存在しない。対して彼の先輩たちは三人とも乗り入れを前提として設計された。だからときたま、本当にときたま、腹の底で何かが波打つことがある。
 地下しか知らない、そしてこれから先もおそらくずっと地下だけを回遊し続けるこどもがはじめて地上を見たのは、浅草に手を引かれて馬込の検車場へ連れて行ってもらった時だった。長い長いトンネルを通ってやっと見えたのは底なしの光の穴、目をつむり気が付くと天井の代わりに青が覆い、薄紅の紫陽花が花壇に満ちて、雨の名残を留めて新緑が瞬いていた。そういえばあのとき既に眼鏡を掛けていたのか、大江戸はよく覚えていない。
「月は」
「え?」
「月は出ていますか?」
「うん、きれいな満月」
 見えもしない月など本当はどうでもよかった。ただなんとなく訊きたくなった。ほうじ茶を啜りながら書類をめくり、顔も上げずに新宿は答えた。
「こういう寒い夜はさ、月が凄いよね」
「申し訳ありません、私は見たことがないもので」
「あれま。じゃあ終わったら上に見に行こうか」
「遠慮しておきます」
 新宿の指が止まった。大江戸を捉えた視線は奇妙に色が失せていた。
「私はもぐらですから」
「………だったら俺はなりそこないのもぐらだよ」
 ああ船堀の橋梁を言っているのだなと気が付いたものの、新宿がかすかに頬をゆがめて笑うのに似た顔を作るのを見て、なぜだか大江戸はひどく満足し、一方でひどく喉が渇いているのに気が付いた。
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